夫の父の看病と介護をおこなっています。死亡後どのような請求ができるのでしょうか。

(質問)
私は長男の嫁ですが、夫の父の看病と介護をおこなっています。夫の父の死亡後、法定相続人ではなくても、このような貢献に対する請求をできるようになったと聞きました。どのような請求ができるのでしょうか。
(回答)
被相続人の財産の維持または増加について特別の貢献をしたとしても、従来は、貢献をした者が相続人であるときに限って寄与分が認められるのみでした(民法九〇四条の二)。しかし、平成三〇年の相続法の改正により、相続人以外の者でも、親族(被相続人の六親等内の血族、配偶者及び三親等内の姻族)であるときは、特別の寄与があれば、相続人に対し、特別寄与料を請求することができるようになりました(同法一〇五〇条一項)。なお、同法の施行は令和元年七月一日であり、同日より前に相続が開始していた場合には適用されません。 ご相談者の場合、夫の父が死亡して同人を被相続人とする相続が開始したのが令和元年七月一日以降であれば、被相続人の長男の妻として、被相続人の三親等内の姻族にあたるため、相続人に対し、特別寄与料の支払を請求することができます。請求の相手方である相続人に対し、無償の看護と介護により、被相続人の財産の維持または増加について貢献しており、その貢献が「特別の寄与」であった旨を主張し、特別寄与料の金額について協議することになります。 協議が整わないときまたは協議をすることができないときには、家庭裁判所に対し、特別の寄与に関する調停の申立を行い、調停の場で協議することになります(同法一〇五〇条二項)。なお、相続の開始および相続人を知った時から六か月または相続開始の時から一年を経過したときには、調停を利用できませんので注意が必要です(同項ただし書)。 調停が不調に終わった場合には、家庭裁判所が審判により特別寄与料の額を決定し(同条三項)、その支払が命じられます。 担当弁護士 西川 啓
カテゴリー: 相続のこと

一年の有期契約でパート勤務をしていますが、雇止めが心配です。

(質問)
一年の有期契約でパート勤務をしています。更新を繰り返して、既に五年目になりました。今後も働き続けていきたいと思っており、雇止めが心配です。有期の契約が無期の契約になる場合があると聞きましたが、どのような場合に認められますか。
(回答)
有期の契約が無期の契約になるというのは、労働契約法一八条一項が定める無期転換制度のことです。有期の契約が無期に転換されるためには、①同一の企業との間に二つ以上の有期労働契約を締結していること、②二つ以上の有期労働契約の通算期間が五年を超えること、③有期労働契約の期間満了前に無期労働契約締結の申込をすること、これら三つを充たす必要があります。 ご相談者の場合、まず、一年の有期労働契約を更新して五年目になるとのことで、これが同一の事業主の下でなされているのであれば①を充たします。 次に、通算期間が五年を「超える」ことが必要ですから、現在締結中の五年目の有期労働契約がもう一回更新されて六年目の初日を迎えて初めて無期転換権が発生します。そのため、現在の契約期間が満了した時点で雇止めされた場合には、②を充たさないため無期転換権が発生せず、無期労働契約に転換することはできません。ただし、反復更新により実質的に無期労働契約と同視できること、または、契約更新につき合理的な期待が認められることのいずれかに該当する場合には雇止めは制限されます(労働契約法一九条)。 最後に、通算期間が五年を超えた場合でも、自動的に無期労働契約になるわけではありません。③五年を超えた有期労働契約の契約期間中に、無期労働契約に転換したい旨の申込の意思表示を勤務先に行う必要があります。申込は、後の紛争防止の観点から、書面により行うべきです。 担当弁護士 西川 啓
カテゴリー: 仕事のこと

別居中に、夫に対し生活費を請求することができますか。

(質問)

会社員の夫から一方的に離婚を求められ別居をしました。夫は離婚調停の申し立ての準備をしているようです。私にはパートによる収入しかないのですが、夫に対し、生活費を請求することができますか。
(回答)

婚姻関係にある夫婦は互いに扶養する義務を負い、夫婦の生活費については、その資産・収入・社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために、夫婦が互いに分担するものとされています。別居し、離婚の可能性があるとしても、離婚が成立するまでの間は婚姻関係が継続しているので、引き続き、生活費等の婚姻費用の分担義務があります。
具体的な婚姻費用の分担は、収入の多い者(義務者)が、収入の少ない者(権利者)に対して支払うことになります。その金額については、まずは夫婦の話し合いで決めることになりますが、話し合いで決められないときは、家庭裁判所に婚姻費用の分担を求めて調停を申し立て、調停手続内で、裁判所を入れて協議します。調停でも合意できない場合には、審判手続により、家庭裁判所が婚姻費用の支払の要否及び額を決定します。
婚姻費用の具体的な金額の算定にあたっては、裁判官が作成した「算定表」が利用されており、算定表に沿って決められることが一般的です。
ご相談の件については、別居中であっても婚姻関係が継続している以上、夫の収入が妻の収入を上回るのであれば、妻は、夫に対し、生活費の請求することができます。 担当弁護士 井上 志穂
カテゴリー: お金のこと, 離婚

相続登記をしないで放っておくとどうなるのでしょうか。

(質問)

五年前に父親が亡くなり不動産を相続しましたが、名義変更ができていません。相続登記をしないで放っておくとどうなるのでしょうか。
(回答)

不動産について相続が発生すると、不動産の所有権を取得した相続人は、相続を原因として、自身の名義とする移転登記の申請をすることができます。この申請には、これまでは期限が設けられておりませんでした。そのため、名義が被相続人のままとなり、所有者が不明な土地が多数発生するようになりました。
このような所有者不明の土地の発生を防ぐため、令和三年四月二十一日、相続登記を義務化する不動産登記法の改正がされました。これにより、相続により所有権を取得した者は、相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権移転登記を申請しなければならなくなり、正当な理由なく登記申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処せられることになりました。義務化は、施行日である令和六年四月一日以前に発生した相続にも適用され、施行日から三年以内に登記申請をしなければなりません。
五年以上前に死亡した父から相続した不動産について、現時点では、登記の申請義務はありませんが、令和六年四月一日以降、同日から三年以内に、移転登記の申請をしなければ、十万円以下の過料が科される可能性があります。この点、相続人が、登記官に登記名義人について相続が開始した旨と自らが登記名義人の相続人である旨を申し出ることで、登記申請義務を履行したとみなされる制度も設けられました。施行後直ちに登記申請ができないときは、同制度を利用することを検討してください。(担当弁護士:井上志穂)※訂正…前号の最後の一行に文字の抜けがありました。正しくは以下のとおりとなります。「~を選択されるのが良いと思います。」 担当弁護士 井上 志穂
カテゴリー: 相続のこと

私の家は道路に面していません。以前は玄関側の階段を上り道路に出ていました。その階段は使用している3軒の共有と聞いていましたが、そのうち1軒が舗装工事をしたから通らせてもらえなくなりました。今は裏の家の敷地を通って道路に出ていますが、階段を使用できないのが納得できません。どうしたらよいでしょうか。

(質問)

私の家は道路に面していません。以前は玄関側の階段を上り道路に出ていました。その階段は使用している3軒の共有と聞いていましたが、そのうち1軒が舗装工事をしたから通らせてもらえなくなりました。今は裏の家の敷地を通って道路に出ていますが、階段を使用できないのが納得できません。どうしたらよいでしょうか。
(回答)

各共有者は持分に応じて共有物の全部を使用することができるので(民法二百四十九条)、あなたは今までのように使用し、通行を行うことが可能です。
 舗装工事前後の状態が不明ですが、工事後、道路に出るための通路であることを廃止し、駐車場に変えてしまう場合など、共有物の性質または形状を変えてしまうことは、共有者全員の同意がないと行うことができないので(民法二百五十一条)、このような場合には原状回復を求めることができます。
 階段の修復または改良として舗装工事を行ったような場合であっても、工事をしたお宅が一方的にあなたの階段使用を拒絶することはできないので、上記のとおり今までのように通行できますが、修復または改良の場合には、あなたも工事の費用を負担しなければならなくなる場合があります(民法二百五十三条一項)ので、注意してください。


担当弁護士
加藤 修一
カテゴリー: 隣家トラブル

ある日突然、市役所から電話があり、祖父の従兄弟が所有していた家屋が空き家となっていて、危険なので取り壊してほしいと言われました。祖父の従兄弟とは面識もないのですが、残っている親族は私だけのようです。行政の指示に従わなければならないのでしょうか。

(質問)

ある日突然、市役所から電話があり、祖父の従兄弟が所有していた家屋が空き家となっていて、危険なので取り壊してほしいと言われました。祖父の従兄弟とは面識もないのですが、残っている親族は私だけのようです。行政の指示に従わなければならないのでしょうか。
(回答)

本件では、相談者が空き家を所有していた祖父の従兄弟等から本件の家屋を相続しているのかが、まず問題となります。親族であれば必ず相続人になるとは限りませんので、相談者が祖父の従兄弟の相続人であるかを確認する必要があります。
 祖父の従兄弟という関係からすると、相談者は相続人に当たらない可能性も十分にあります。本件家屋を相続していなければ、相談者は本件家屋に対し権利義務を有していないので、当然には行政の指示に従って本件家屋を取り壊さなければならないことにはなりません。
 また、相続人であった場合でも、祖父の従兄弟の死亡後三か月以内、三か月を経過していても相続開始を知らなければ、相続を放棄することができます。相続放棄をした場合にも、同じく当然には行政の指示に従わなければならないことにはなりません。
 他方、相談者が相続した場合には、空家等対策特別措置法により、本件の家屋が倒壊等著しく保安上危険となる恐れがあるといったような状態で、同法が定める「特定空家等」に該当すると、市は、空家の取り壊しや修繕などの措置について助言や指導、さらには勧告や命令を行うことができますので、市役所からの指示が同法によるものであれば、指示に従わなければならないことになります。


担当弁護士
伊藤 安耶
カテゴリー: 土地・住宅のこと

最近この町に引っ越してきました。近所付き合いをしたくないので町内会への加入を拒んだところ、当該地域のごみの集積所にごみを出せなくなりました。

(質問)

最近この町に引っ越してきました。近所付き合いをしたくないので町内会への加入を拒んだところ、当該地域のごみの集積所にごみを出せなくなりました。
(回答)

ゴミの収集方法は各市町村が定める一般廃棄物処理計画によって、住民は居住する市町村が定めている方法に従ってごみの回収を求めることになります。建物ごとにごみを収集していく戸別収集によらず、集積所から収集することを定めている市町村では、集積所を使用しない場合には廃棄物の処分場に直接ごみを持ち込むことにならざるをえません。
集積所は、町内会が管理をしている所が多いのですが、市町村が設けている集積所の設置基準では、集積所の使用と管理の主体は地域の住民ですので、町内会へ加入しなくても集積所の使用と管理に参加できるよう近隣の住民の理解を得ていくことが考えられます。町内会に加入していないことに対する嫌がらせと評価される場合には、集積所の使用を認めないことが違法とされる場合もありえます。
集積所が私有地にあり、土地の所有者が町内会の会員の使用にしか同意しないような場合など、集積所を使用できないようなときは、理解し、協力してくれる住民とともに、新たに市町村の設置基準を満たす集積所の設置を目指すことも考えられます。
なお、各市町村の廃棄物に関する条例は、廃棄物の排出に関し清潔の保持などに住民の相互協力義務を定めていますので、集積所を使用する以上は、その管理に必要な範囲での近所付き合いは必要です。



(担当弁護士)
加藤修一
カテゴリー: 土地・住宅のこと

脱サラして飲食店を開業しようと考えています。自己資金の足りない分を借入れることにしましたが、海外で年金生活を送る両親が保証人になる事はできるでしょうか。

(質問)

脱サラして飲食店を開業しようと考えています。自己資金の足りない分を借入れることにしましたが、海外で年金生活を送る両親が保証人になる事はできるでしょうか。
(回答)

保証(保証契約)は、借入れをした人(以下では「主たる債務者」といいます。)が、借金を返済できなかったときに、主たる債務者に代わって保証人が返済をするという、保証人と債務者との間の契約です。
ですから、債務者としては、通常、保証人となろうとするものに安定した収入や財産があるか等、そのものが保証人としてふさわしい人物か否かを慎重に判断するでしょう。
民法も、債務者が保証人を立てる義務を負う場合、その保証人は、①行為能力(一人で有効な法律行為を行う能力)と②弁済の資力を有する者でなければならないと定めています(民法四百五十条一項)。
相談者のご両親は、海外で年金生活を送られているという事ですので、貸付額やほかの貸付条件にもよりますが、債務者が、ご両親の資力が十分とはいえないとか、海外にいるご両親とすぐに連絡が取れない可能性があるといったリスクを考慮し、ご両親は保証人としてふさわしくないと判断する可能性もあるでしょう。


(担当弁護士)
吉田瑞穂
カテゴリー: お金のこと

夫の不貞が原因で離婚しましたが、夫の支払い能力の関係で慰謝料の分割払に応じました。ところが、支払が半年も滞っています。残金の一括支払を求められるでしょうか。また、延滞金を請求できるものでしょうか。

(質問)

夫の不貞が原因で離婚しましたが、夫の支払い能力の関係で慰謝料の分割払に応じました。ところが、支払が半年も滞っています。残金の一括支払を求められるでしょうか。また、延滞金を請求できるものでしょうか。
(回答)

慰謝料残金の一括支払については、分割払に応じた際に、支払が滞った場合の「期限の利益損失」について合意していたか否かによります。「期限の利益損失」の合意とは、支払が滞ったといった場合に未払の残金を一括して請求できることにするもので、この合意がなされていれば、残金の一括支払を求めることができます。一方で、この合意がなされていない場合には、当然には一括払を求めることはできないことになります。
 延滞金については、支払期限を守らなかった場合、支払期限を途過した時点から遅延損害金として請求することができます。この点、前に述べた期限の利益損失の合意がある場合には未払の残金金額に対する遅延損害金を請求することができますが、合意がない場合には期限が来ている分に対してのみ遅延損害金を請求できることになります。遅延損害金の利率については、当事者が合意により定めていない場合には、年5%となります(民法第四百十九条)。
 本件では、慰謝料の分割払に応じる際、どのような合意がなされたのかが明らかではありませんが、後日支払が滞った場合等に備え、慰謝料の金額、分割払の回数、各回の支払期限及び支払額、期限の利益損失、延滞損害金の利率等については書面を取り交わして明確にしておいた方がよいでしょう。


 
 
(担当弁護士)
 伊藤 安那 







カテゴリー: 家族のこと, 離婚

離婚した配偶者の年金分割ができるそうですが、どのようなことか教えてください。

(質問)

離婚した配偶者の年金分割ができるそうですが、どのようなことか教えてください。
(回答)

離婚時の年金分割とは、婚姻期間中に納めてきた厚生年金や共済年金の年金保険料の記録を離婚に伴って夫婦で分割するものです。将来給付される年金額そのものを分けるものではありません。厚生年金等は、給与額に応じて保険料を納めますが、夫婦のうち給与の多い側の収入は、他方の貢献により形成されたと考えられることから、年金分割により厚生年金等に未加入ないしは納付保険料の少ない側の将来の年金額が増えるようにし、公平を図るのです。
 年金分割には、①夫婦の合意なく行える場合と②夫婦の合意又は裁判所での取り決めにより行う場合があります。
 ①夫婦の合意なく行える場合とは、平成二十年五月一日以後に離婚した場合で、かつ、分割を受ける側が、他方の扶養者になっており、国民年金の保険料を本人が負担していない場合です。この場合、夫婦の間で合意がなくても、平成二十年四月一日以後の婚姻期間中の保険料の記録を当然に半分ずつに分割できます。平成二十年三月三十一日以前の記録については、②の手続きが必要です。
 ②夫婦の合意または裁判所での取り決めにより行う場合とは、婚姻の全期間中の保険料の記録の分割割合を夫婦の合意または裁判所で定めてもらう事で行う場合です。この際、分割すべき保険料の記録を正確に把握するため、年金分割のための「情報通知書」を用意しましょう。
 ①の場合及び②の場合で分割割合が定まったら、年金事務所で年金分割の請求をします。この請求は、原則として、離婚から二年以内に行わなければならないので、注意しましょう。

 
 
(担当弁護士)
 山縣 宏子 






カテゴリー: 家族のこと, 離婚